新旧お宝アルバム! #2「Bad Self Portrait」Lake Street Dive

新旧お宝アルバム #2

「Bad Self Portraits」Lake Street Dive (Signature Sound, 2014)

先週からスタートしたこの「新旧お宝アルバム!」第2回の今回、「新」のアルバムの最初に選んだのは2004年にボストンで結成、現在はニューヨークのブルックリンをベースに活動する男女2×2の4人組、レイク・ストリート・ダイヴの昨年リリースのアルバム「Bad Self Portraits」です。

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レイク・ストリート・ダイヴって誰?」そうですよね、日本ではアルバムが発売されてませんし、全米でもこのアルバムでブレイクしたばっかりなので、まずはバンドの紹介から始めなければいけません。

彼らのサウンドを一言で言うと、ジャズ的なフィーリングをベースに、モータウン、R&B、メインストリーム・ポップ、1970年的なクラシック・ロック、カントリー/ルーツ・ロックといった様々な要素を見事にミックスしたキャッチーな楽曲を聴かせる、とても歌唱と演奏能力の優れたバンド、ということになります。

何と言ってもボーカルのレイチェル・プライスの歌唱力は素晴らしいのですが、マライアセリーン・ディオンなどのメインストリームのポップ・ボーカリストとは違い、ハスキーな声質で随所にジャズ的なスタイルで高度なボーカルテクニックを駆使して歌う、とても「カッコいい」女性ボーカリストです。

また彼女は過去ジャズ・ボーカリストとしてもアルバムを出しており、2003年にはモントルー・ジャズ・フェスティバルの国際ジャズ・ボーカル・コンテストで選外ですが特別賞を受賞した、実力派のシンガー。

他のメンバーは、トランペットも吹くギターのマイク・”マクダック”・オルソン、アップライトベースがカッコいいベースのブリジット・カーニー嬢、ドラムのマイク・カラブリーズ。みなボストンのニュー・イングランド音楽院の学友で、それぞれがクラシックの素養もあるミュージシャンの師弟で、曲も書き、ジャズにのめり込んだ時期もあったようですが、バンドでは彼ら自身が慣れ親しんだポップ・ロック・R&B路線で行くことにしたとのこと。

何しろ1曲めの「Bad Self Portrait」(出来の悪いセルフィー写真、とでもいいますか)からノリのいいサウンドとレイチェルのパワフルながら巧みなボーカルが炸裂するキャッチーなナンバーで、いきなり冒頭から引き込まれること請け合い。

[youtube]https://youtu.be/uRrjDhQLw9s[/youtube]

続く「Stop Your Crying」はフォービートの中に一瞬ツービートが混ざるリズムの面白さとバンドのコーラスがレイチェルのボーカルをうまく引き立てるこれもとてもキャッチーな曲。

3曲めの「Better Than」はぐっとしっとりとした曲調ながら、ナッシュヴィルかメンフィスの小さなクラブで演奏しているかのような音響と雰囲気の、これも思わず聴き入ってしまう佳曲(マイクのトランペットもそういう雰囲気を盛り上げてます)。

といった感じでこのアルバム、順番に紹介していくとほぼ全ての楽曲のクオリティが高いのできりがないのです。

そんな中で一つ、レイチェルのボーカル以外に特筆すべきは、リズムの使い方と楽曲のアレンジの組み合わせの面白さ。

Stop Your Crying」のフォービートとツービートの組み合わせ以外にも「Better Than」ではフォービートの途中に一瞬3/4が入るのが曲の魅力になってます。

5曲めの「You Go Down Smooth」などは普通に聴くとモータウン・リズム(フィル・コリンズの「恋はあせらず」とかのあの感じです)ですが、ブリッジ(サビ)が一小節ごとにボーカルは半音ずつ上がっていくのに対して、ベースは半音ずつ下がっていくというにくいアレンジ(ビートルズの「Got To Get You Into My Life」でのポールのベースラインをヒントにしているようです)だったりとか、とにかく彼らの楽曲には1960年代後半~1970年代の懐かしい楽曲を思わせる心地よさが満載で、気持ちよさのドーパミンがガンガンに放出されるのを感じるのです。

彼らはこのアルバム以前にも2007年からインディーでEPをリリースしたり、いろんなフェスに参加したりして、草の根人気を全米では築きつつあるようで、それが今回のこのアルバムのビルボード誌アルバムチャートでの初めての上位ランキング(18位)といったブレイクに繋がっているようです。

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私がこのバンドを知ったのは、現在アメリカ留学中の娘が現地でSpotifyで聴いて気に入っている、というので教えてもらったのがきっかけ。

日本では全く聴いたことがなく、娘から教えられなければこのバンドを知ることもなかったかも。

そう考えるとこれだけ良質のバンドが全く日本で知られないのは本当にもったいない。彼らのサウンドは前述のように、70年代に洋楽に親しんだリスナーの皆さんの琴線に触れる魅力満載ですから、「最近のバンドにはいいのがいない」などと仰っているベテラン洋楽ファンの皆さんにこそ、彼らの作品を是非聴いて頂きたいのです。

彼らのパフォーマンスはYouTubeに多くの映像がアップされています。このアルバムの楽曲の他に、彼らが2012年にボストンの街角でニューオーリンズ・ジャズ風にアレンジして演奏したジャクソン5の「I Want You Back」やアパートの一室でこれもジャズっぽくアレンジしたホール&オーツの「Rich Girl」などが見れます。オリジナルの楽曲以外のこういうカバーの出来の素晴らしさも、彼らのミュージシャンとしての質の高さを証明していると思います。

こういうクオリティの高いバンドがこのコラムのような場を通じてより多くの人に聴かれることを願って。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位18位(2014.3.8)